2005年10月1日土曜日

突然、ラスベガス

突然、レイが明後日から一泊でラスヴェガスへ行こうという。10月28日が彼の誕生日だったことと2005年のハーヴェストがほぼ終わりに近づいたこと、スイートが1泊100ドルと格安だったことがその理由。私は20年以上カリフォルニアに住んでいるけれど、ラスヴェガスへは行ったことがなかった。レイも 40年ぶりだという。一泊ならさっと行ってさっとおのぼりさんをすればいいし、気に入ったらあらためてまた行けばいいから面白いかもというので、行くことに決定。 
   朝9時ころにサンフランシスコの空港へ着いた。長い列に加わる。 
「危険物は持たないこと、携帯電話はスイッチを切るように」
「も う一度繰り返す。危険物は持たないこと、ナイフ、云々」と大柄な男性担当官が大声で繰り返す。スピーカーなし、地声なのがすごい。まだ眠気が完全に取れて いない頭に大声が響く。「もうわかったってば!」と怒鳴り返したいのをぐっと我慢する。行列の人々はうんざりした表情を浮かべるか苦笑するかのどちらか だった。

   アメリカは9月11日のテロのタワー攻撃以来本当に変わってしまった。旅へ出るときは、まず長列を作ってこの声を聞きながらのろのろと前進、ジャケットと靴 を脱いで、荷物のレントゲン?チェックの洗礼を受けなければならない。
一度などは、思わず両手を挙げてチェックをするゲートを通過したら、筋肉隆々の頭が てかてかに光っている黒人の検査員が「ホールドアップすることはないでしょう」と言う。
   昨年の夏に東南アジアを回ったときのこと。カリフォルニアでは必ず 靴を脱がなければならないので、当たり前と思って靴を脱いでたら、担当のアジア人たちは恐怖におののいて「何をしてるの?」という顔で私を見るではない か。レイが「アメリカ以外では誰も靴なんか脱がないんだよ」と囁く。
そうそう、ニューヨークでは、女性が「危険物は持たないこと」とスピーカーで叫び続けていた。この仕事を仰せつかって、今までなかったパワーを感じて意気軒昂であるらしい。その女性が私をじっと見て、「切符を手にしているそこの彼女、切符をなくすることがあるからバックに入れなさい。トラスト・ミー」と言う。「えっ、私のこと?あんたに関係ないんじゃないの」と言いたいところをぐっと抑えて、(最近、私はぐっと抑えることが多くなったというか抑えられるようになった)聞こえないふりをした。 

   話を元に戻して、砂漠に作られた巨大な人工都市。飛行機の窓から眺めると、家々がきちんとまるで模型のように並んでいる。飛行場にもスロットマシンが並んで いる。さすがはラスヴェガス!なんて変なところで感心。シャトルでホテル、ヴェネチアンへ行く途中、パリの凱旋門が見えた。「何で砂漠の真ん中に凱旋門 が?」む、む、むと口元が緩む。   天井壁画がびっしりのホテルへ着く。観光客で賑わうゴンドラまであるヴェニスの運河?のあるセクションへ行ってみる。人工空は雲が(空が?)動くようになっ ている。夕方のヴェニスなのだ。レイが「ちょっと臭いところまでヴェニスの運河だな」と笑う。イタリア資本も入って作られたこのセクションにはイタリア人の人たちがたくさん働いていた。「見て、ナヨミと3人でランチを食べたヴェニスのホテル前のカフェがここにあるじゃないか」とまた冗談を飛ばす。 どこのホテルのロビーもゲーム機とテーブルがずっりと並んでいる。タバコの煙でむせそうな大きなゲームホールを通過しないとチェックインカウンターまで行き着かないように設計されている。 

   私は不調法でカード等のゲームの遊び方を知らないし、1ドルとか50セントのスロットマシーンは金食い機のように楽しむまもなくあっという間にお金が消えていくし、ちっとも楽しくない。退屈。 
  このホテルだけでも19のレストランが入っているというので、大いに期待したのだが、サンフランシスコとロスアンゼルス、ナパから進出しているレストランが 多かった。ブション、ピノ・ブラン、パストリアとかロスアンゼルスのイタリアレストラン、ヴァレンティーノのとか。値段がナパやサンフランシスコで食べる より3倍もするし、地元で食べられるから、あまり魅力がない。 
   巨大な家事のホテルが並ぶ地区のメイン道路をショーを見に行くために歩いた。エジプト、ニューヨーク、パリとテーマが決まったカジノ&ホテルが続く。イタリアのトレビの泉もあるしエッフェル塔もある。不可思議な気持ち。
「イタリア人がトレビの泉をラスヴェガスで見たらなんて思うのかな?」
「ここのは真っ白できれいだから、自分たちのは黒ずんでいて恥ずかしいと思うよ」
とレイがジョークを飛ばす。

ホ テルへ戻ってラウンジがなかなかいいとパンフレットに書いてあったTAOというアジア系の料理を出すバーへ行ってみた。大きな仏像がでんと飾ってある。赤いライトであんまりよく中が見えない。わさび味の大豆のおつまみが甘いカクテルに良くあったので、むしゃむしゃ。それにしても仏教徒でもない人たちが阿弥 陀仏をインテリアデザインの一つとして使うのが興味深い。キリストが十字架を背負っている像をバーのインテリアに使ったら、キリスト教徒の人はなんていう のだろうなんてふと考えた。そういえば日本へ行ったら若い女性やテレビに出ていた女性が大きな十字架のペンダントをしていた。アクセサリーとして素敵だと 持っているからだと思う。アメリカの信心深いキリスト教徒の人が見たら、日本の若い女性でもこんなに信心深いキリスト教徒がいるのね、なんて感激するかも 知れない。クロス(十字架)をアクセサリーだといって使っているアメリカ人はいないからだ。 

   というわけで、あんまり美味しいワインも飲めまず、レイはビールばかり、私は甘ったるいジュースがたくさん入ったカクテルを飲む羽目になった。規模だけは本格的な凱旋門や、スフインクス、タワーや彫刻、ハイテクの大型映像を眺めながら、なるほどねと(何になるほどなのかわからないけれど)、思いながら帰途に着いた。 レイが「ソノマは緑が多すぎるヨ。何の騒音もないし静か過ぎる」と最後のジョーク。 またラスヴェガスに行くとしたら女友達とショーを見に行くかもしれないが、レイはラスヴェガスに行くことはまずないだろう。