2008年3月12日水曜日

ベルギーでのワインテイスティング





2月末から3月にかけて、ベルギーとパリへ行って来た。
ベルギーのブリュッセルでマークとアニカが1年おきに開催するテイスティングに出席するためだ。今年で10周年を迎える。マークとアニカはヴィンセントというワイン会社を経営している。20年前に娘と3人でキャンピングカーでヨーロッパを巡り、ヴィンエクスポに参加したときに知り合った。「ベルギーへ寄りなよ」というマークの言葉に「オーケー」と夫は軽く答えて、渡されたメモを頼りに、ブルッセルの郊外に住む彼たちを訪ねたのがきっかけだ。ボルドーやブルゴーニュのワインが高く、そして飽きていたマークは情熱を注ぐことが出来る新しい産地を探していた。夫がバイヤーを探していたカリフォルニアのワインがすっかり気に入って、ベルギーで紹介するようになったのだ。

その後、マークはカリフォルニアワイン以外にジェラ、南フランス、ラングドック、ジゴンダス、マディラン、シャトーヌフ・デュ・パプ、南西地方、ローヌ等の産地の無名だった生産者たちをベルギーのワイン市場に紹介した。今ではペゴー(Domaine du Pegau)をはじめ、ホットなワイナリーとして名が知られるようになった生産者も少なくない。マークは、無名な生産者を成功させるエージェントとして押しも押されぬ存在になっている。
テイスティングに参加する生産者が20社ほどだった初回から、夫はカリフォルニアワインを持って参加している。そのころから彼たちの家に泊まるのが習慣になっているのだ。最近のテイスティングには、100の生産者が参加するようになっている。
今年はカリフォルニアワインを10ケース持参。その運びとテイスティングのときにワインを注ぐ助っ人として、私も参加。
今年は相棒が驚くほどにカリフォルニアワインに対する関心が高かった。ドルが弱いからユーロで安く買えることも理由のひとつなのだろう。テーブル2つにずらりと並べられた100本のワインを説明しながら注ぐ。二人ともとても忙しかった。

例年はカリフォルニアワインに関心を持ってブースへやってくるのはオランダとドイツのバイヤーが主なのだけれど、今年はベルギーのバイヤーたちも関心を示していた。 
ワインを注ぐためにやってきている生産者たちは、自分たちのブースが暇になるとカリフォルニアの私たちのブースへやってきて、試飲をしながら真剣な顔でフランス語かベルギー語でぶつぶつと話し合っている。 
昨年の末に我が家を訪れたジゴンダスの生産者、Domaine Les Pallieresのテリーが待ち構えていたように、私たちのブースにやってきた。2日間、暇があればやってきて試飲している。ドイツ人の奥様、コリナは、自分のラベルで独自のワインを造っているというユニークなカップル。コリナは体調が悪くて、今回は欠席。彼たちが造るワインはモダンなスタイルで、なかなかいい。

2日目の夜は100人の生産者が一同に介して食事をするのが慣わしだ。7時30分にバスが出発するというのに、フランス組みは悠々と遅れてくる。8時30分に出発。夕食に飲むワインを各自持参するようにとマークからの指示。私たちは試飲に使ったけれど、まだワインが半分以上残っているボトルを12本持参した。オープンしていないボトルは、もう残っていなかった。ベルギーは、「なんていったって、フランスワイン」という人たちが住む国なのだから、カリフォルニアワインは自分たちのテーブルで飲むのだろうなと予想していた。席について、持ち寄ったワインを置いてあるテーブルにワインを取りに行ったら、カリフォルニアのワインはすでに消えていた。生産者たちは日ごろ飲む機会がないワインを飲んでみたいということなのだろう。
会食が終わって、夜中の1時過ぎに、アニカが運転する車で帰途に着く。うとうとしていて、ふと外を見ると、雪が降っている。高速の道沿いの枯れ木は雪が積もってまるで白い花が咲いたようだった。こんなに雪を見たのは何年ぶりだろう。
ベルギーという国は平らだ。見渡す限りが平地で丘というものがない。薄い青みをおびた空と雲が長い横じまになって伸びていた。 
生えている木々は細くて痩せている。細い白樺の裸樹が目立つ。陽がさす日々が少なく、気温も高くならないのだろう。 

テイスティングの2日前に着いた私たちはアルゼンチンから初めてベルギーへやってきたシルビアとウーゴをブルージュへ案内した。相棒がスペイン語辞典を駆使して会話を進める。シルビアの初歩の英語力と私の初歩のスペイン語で女性同士、何とかコミュニケーションを図る。ショッピングとお茶を飲みたいのはすぐに意思が通じた。ブルージュは中世期に作られたとても美しい町。でも外反母趾の手術をして1年後の左足にはでこぼこのコブラ道はきつかった。
ブルッセルからパリまで汽車で1時間30分。着いたパリもベルギーと同じように寒かった。冬のパリは観光客が少なくて、よく言えばしっとりとしている。悪く言えばちょっと暗い。
テイスティングで長年の知り合いになったドメイン・ミッシェール・オジエ(Domaine Michel Ogier)の若き生産者がパリで食べに行ったらいいよと教えてくれたレストラン「FISH」へメトロで行く。彼のワインが置いてあった。店名どおり魚介類専門のレストランだ。オーナーはフロリダに住んでいたキューバ人。ジェランソーのデザートワインや、ロワールのシェナンブランから造った貴腐菌がついたワインなどをいろいろと飲ませてもらって、ほろ酔い。カフェでエスプレッソを飲んで酔いをさます。道行く人たちは寒そうにマフラーに顔を埋めて急ぎ足。

夜はマークが絶対に行ったらいいと勧めてくれたL’atelierというレストランへ行った。香港、ラスベガス、ロンドン、東京、マカオ、モナコ、ニューヨーク、パリ、東京に店を持つJoel Robuchon が指揮するレストランのひとつだ。5時30分の開店を待つお客さんが列を作っていた。満員で入るのが大変らしい。オープンキッチンを囲む36、全席がカウンター。一皿の料理の量は少なめ。新鮮な白身の魚のタルタルとか、サンフランシスコのAME風のものとか、スペイン風の料理とか、クリエイティヴな料理だ。とても美味しいけれど、カリフォルニアで脂っこくない料理を食べなれている胃袋には結構重く感じられた。
ソノマへ帰ってきたら日中の気温は18度、スモモや桃の花が咲いて、初夏なのだ。カリフォルニアに帰ってきたなあという実感を味わう。