2007年12月12日水曜日

メキシカンの結婚式

ひょんなことからナパのワイナリーで働いているメキシカンカップル、ロシタとイダホの結婚式に招かれた。カリフォルニアのワイン産業はメキシコ人の貢献なくしてはありえない。ブドウ栽培、セラーの仕事を支えている。 陽気なラテンのパーティ、マリアッチバンド、メキシコ料理が次々と頭に浮かんでうきうきして出かけた。

レセプションは3時から。すでにマリアッチバンドがメキシコの歌を演奏していた。白い上着に黒いスラックス、赤いリボンタイを結んだ、伝統的なマリアッチバンドだ。一緒に行った友人はどの歌もみんな同じに聞こえると言うので、思わず笑ってしまった。 頭のよさそうな美人の花嫁さん。がっしりした体格の誠実そうなお婿さん。薄紫のおそろいのドレスを着た5人のブライド・メイド(花嫁の付き添い女性)がいる席に案内された。 
花嫁、花婿さん自らが「飲み物は?」と聞いてくれて、飲み物を持ってきてくれる。「食事の用意が整ったから、並んでください」と手招きして呼んでくれる。花嫁と花婿の席に鎮座して式典が繰り広げられるという結婚パーティとは違って、アットホームだ。といっても決して親しい人だけのこじんまりした結婚式ではない。300人のゲストがやってくるという。このパーティの出席者のほとんどがメキシコ系の人たちだ。アジア人は私と友人の二人だけ。忙しいのに二人は私たちに気を使ってくれる。 
驚いた目でじっと私たちを凝視する人もいたけれど、薄紫のドレスを着た女性たちはフレンドリーだった。ワインのボトルを持ってきてテーブルにおいてくれた。
「あなたはセブンアップを飲んでるの?」
「ノー、テキーラがミックスしてあるの」と言ってブライド・メイドの一人がにこっと笑った。
「素敵なヘアスタイルね」
カールをして結い上げてある髪を指差していったら「お友達が結ってくれたの」という。なつかしい素朴な日本の結婚式を思い出す。

ランチが終わったら、花婿さんと友人の男性数人がごみ用の大きなビニール袋を持って、お皿やコップを片付けだした。 花婿さんが後片付けをしているのは、初めてみた。 
そして次の部屋へ移る。平均年齢45歳くらいかなという年配風の演奏者がほとんどのマリアッチバンドが、相変わらずメキシコの歌を演奏している。日本で言う演歌なのだろう。
まだ食べている人もいれば次の間で椅子に座って、話すでもなくボーっとしている人たちも多い。日本の結婚式のように式場担当者とか進行係と言う人がいないらしいのだ。程よいころだと思うとお婿さんとお嫁さんが指示して、次のプログラムに移るということのようだった。かれこれ1時間30分は、何もしないでボーっというのが続いた。そしてようやく次の、もう少し現代的なバンドがやってきた。
花婿さんが選んだという曲で二人がダンス。それからブライド・メイドの女性たちと家族らしい男性と数人の女性が踊る。 急ににぎやかな曲に変わって、花婿さんと花嫁さんが椅子の上に立ってヴェールを片方ずつ握ってゲートを作った。そのゲートを紫のドレスを着た女性たちが列を作って小走りに駆け抜けて次の部屋に行って、帰って来る。独身女性はその列の仲間に入る。音楽が消えたところで花嫁がブーケを放る。ブーケを手にした女性は、次に結婚するのは私だ!と歓喜の表情で飛び跳ねる。次は男性グループの番だ。すごいスピードで列が走る。曲が止むと花婿が花嫁のスカートの下に入って取り外しはずしたガーターを男性たちに向かって放る。 
10歳くらいの男の子が全員にマチ針を配り始めた。友人が隣の品のいい黒のスーツを着た女性に「これは何ですか?」と聞いたけれど、英語は話さないようだった。私が隣の男性に聞いたら、お金をこの針で彼たちの服につけるのだと言う。友人と二人で張り切って待ち構えていた。気が付いたら、マチ針で花嫁か花婿の服にお金をつけて花婿か花嫁と踊るのだ。私たちはアラビアンダンスのダンサーが腰を震わせて近づいてきたら、お金を胸とか腰に入れるのと勘違いしていたのだった。友人が「そうよね、ラスベガスじゃないんだから」と言うので大笑いした。 
すでにとても疲れている花嫁さんは、いろんな人が入れ替わり立ち代りやってきてはお金を止めた人とダンスをするのに疲れた表情をしていた。花婿さんはリボン状に折ったドル札を頭に飾られて、それでも余裕たっぷりに踊っていた。それが終わって花嫁と花婿が再び二人で踊ることになったときには、花嫁はほっとした幸せそうな表情を見せた。 「ウエディングケーキを食べたら帰ろう」と友人が言うので待っていたけれど、なかなかウエディングケーキのカットはしない。花嫁さんに聞いたら、いつになるかわからないと言う。 
テンポの速いサンバが演奏されて、ダンスをする人たちが増えた。ちょっと太目のお姉さまやおじ様たちが足取り軽くステップを踏んでいる。そのリズム感はさすが。ダンスをする人たちで埋まったフロアーを10人くらいの子供たちが興奮してすごいスピードで走りまわる。誰も気にする人はいなくて、ダンスのひとつの場面という感じなのだ。 7時になっていた。あたりは暗くなったのでウエディングケーキを食べるのはあきらめて帰ることにした。
帰り道に、大きな贈り物を抱えてやってくる人たちと出会う。 食事は親類が、ウエディングケーキは友人が、花嫁ドレスはお母さんが縫ってくれたという。手作りの結婚式。 日本のホテルでの結婚式なら、この時間内にもう3つの披露宴が終わっているかもしれない。
待つことをちっとも苦にしない、ぼんやりと座っていることが多分日常なのだろう。そしてこのパーティはきっと夜中の12時まで続いたことだろう。 
人任せではない、自分たちの結婚式を自分たちで取り仕切っていた。 責任感のありそうな花婿さんと働き者の美人の花嫁さんの幸せを祈って帰路についた。